リニア・テック

ログイン

カート

ホームアナログ電子回路

アナログ電子回路

電気・電子工学の全体像

電気・電子工学における「設計」とは,電子回路の内部で生じる物理現象を理解した上で,設計者の意図に沿った形で電場や磁場,電荷の動きを作り込む作業です.電気・電子工学を習得して使いこなすには,電磁気学をはじめとする物理の各分野や,物理を記述するための道具である数学の理解が不可欠です.

電気・電子工学の歴史は「通信機」の歴史そのものです(このWebページを見るために使っているパソコンやスマートフォンも「通信機」の1つです).真空管やトランジスタといった歴史に残るキー・デバイスは,いずれも通信機を作るために生み出されました.電車や電気自動車などの技術や,それらを支える社会インフラである電力網に関する技術も,本質的には通信機の技術の延長・転用です.よって,電気・電子工学の様々な技術を学ぶときは通信機を意識すると見通しが良くなります.

上の図は数学,物理,そして電気・電子工学の各分野を体系的にまとめたものです.図中の矢印は,おすすめの学習順序(あるいは理論の依存関係)を示しています.電気・電子工学は広大な分野であり,1つの図で表現するのは困難です.ここに示した内容はあくまで参考程度にとらえてください.

「通信機」を中心にして理論の地図を読み解く

フィルタとアンプ

通信機の本質,すなわち電気・電子工学の本質は「フィルタ」と「アンプ」です.電気・電子工学のあらゆる理論はこの2つを作るために発展したと言っても過言ではありません.

「フィルタ」は,抵抗R,キャパシタC,インダクタLなどの受動素子だけで作られた回路の代表例です.フィルタ回路を理解するには,すべての電気・電子技術の土台である「電磁気学」から出発します.LCRだけで構成された回路の挙動を扱うのが「線形回路理論」であり,これは様々な回路設計の基礎となります.これを発展させて,設計者が必要とする信号だけを取り出す回路の設計技法をまとめた体系が「フィルタ回路理論」です.

「アンプ」(増幅回路)は,トランジスタなどの能動素子を使った回路の代表例です.アンプは微小な振幅の信号を大きく増幅(数学的には定数倍)する回路であり,コンピュータを構成するCPUやメモリなどのディジタル回路にも本質的にはアンプと同じ回路構造が使われています.アンプの中心は,トランジスタをはじめとする「半導体デバイス」です.半導体の動作を理解するためには,電磁気学にとどまらず量子力学や熱力学・統計力学などを土台とした「物性物理学」の知識が必要です.また,性能の良いアンプを作るためによく使われる「フィードバック」(帰還)という技術があります.これはフーリエ解析を基礎とした「古典制御理論」の成果であり,半導体デバイスの物理とはまったく別の独立した話として理解する必要があります.いわゆる「トランジスタ回路」とは,「半導体の物理」,「古典制御理論」,そして先述の「フィルタ回路理論」をすべて融合した技術分野です.

低周波回路と高周波回路

一般に,高速な動作が求められる電子回路ほど高性能で高価な部品が必要となり,設計が難しくなります.数MHz以下の信号を扱う回路は「低周波回路」と呼ばれ,それ以上の周波数,特に数100MHz以上の信号を扱う回路は「高周波回路」と呼ばれます.低周波回路の代表例は「オーディオ・アンプ」などの低周波増幅回路であり,これは様々なアナログ回路の基本技術を含んでいます.高周波回路の代表例は「ラジオ」や「無線機」(スマートフォンやWi-Fiルータも無線機の一種です)などの電波を直接扱う回路であり,基本的なトランジスタ回路の設計技術に加えて「電磁波工学」の知識が必要となります.高周波アナログ回路を自由自在に設計・開発できるようになることは,電子回路の設計者が目指す最終到達点の1つです.

ディジタル信号処理と通信工学

最近の通信機は,必要な電気信号を選択・増幅するアナログ回路部分と,通信用のデータを処理するコンピュータ(ディジタル回路)部分を組み合わせた構成になっています.スマート・フォンやWi-Fiルータなどもこの構成を採用しており,一般に「ソフトウェア無線機」(SDR,Software Defined Radio)と呼ばれます.SDRを設計・開発するためには,コンピュータ上の数値計算でフィルタ機能などを実現する「ディジタル信号処理」や,効果的な情報の圧縮や雑音の評価などを扱う「通信工学」の知識が必要となります.これは「アナログ電子回路」を超えた話題ですが,電気・電子工学における重要な分野となっています.

高周波アナログ回路

電気・電子回路の技術の集大成です.実用的な「通信機」を作るための技術や理論を解説します.