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定義,公理,命題,定理,補題,系,公式

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数学や物理,工学などの本を読んでいると「定義」や「定理」,「系」といった言葉をよく見かけます.これらの用語の意味を整理して,実際に学習するときのポイントを解説します.

定義

「定義」(ていぎ,definition)とは,言葉や記号の意味を定める文のことです.

たとえば,線形代数 で扱う「行列」の定義は次のとおりです.

$\begin{pmatrix}1 & 2 \\ 3 & 4\end{pmatrix}$ のように,数を縦と横に並べたものを「行列」という.

また,「偶数」の定義は次のように書けます.

2で割り切れる整数を「偶数」という.

数学的な話ではありませんが,次のような「ジャンケン」における手の出し方も立派な「定義」です.

  • 「グー」はすべての指を握る.
  • 「チョキ」は2本の指(通常は人差し指と中指)を伸ばして他を曲げる.
  • 「パー」はすべての指を広げる.

当然ですが,上記の「ジャンケンの出し手」を知らないとジャンケンはできません.このように「定義」はすべての土台であり,定義を理解しないことには何も始まりません.

一般に「数学がまったくわからない」という場合は,そもそも「定義を理解できていない」ことが多いようです.定義を理解するためには,別の予備知識が必要なこともあります.どの予備知識が原因でつまずいているのか,自分なりに分析することも重要です.

私も実際のところ,初めて学ぶ分野の本を読むときに「定義に含まれる言葉の意味がわからないから別の本で調べよう!」ということがよくあります.さらに「その別の本で出てくる数式の意味を忘れたからまた別の本で復習しよう!」なんてことを繰り返して,数時間があっという間に過ぎてしまうこともあります.いずれにせよ,定義の中に知らない言葉や数式があったらすぐに調べることをおすすめします.面倒だと思われるかもしれませんが,トータルで見ればこれが最短の攻略法です.

もし本やセミナ動画などで「定義」が出てきたら,ぜひ自分の手でノートにその定義を書き写してみてください.定義はすべての議論の土台なので,すぐに自分の頭にインプットしておけばその後の効率が良くなります.また,定義の中に知らない単語や理解できない式などが含まれていると,自分の手で書き写している時に違和感をもつはずです.このような自己チェックも兼ねて,「まずは定義を自分の手で書いてみる」ことを強くおすすめします.

公理

「公理」(こうり,axiom)とは,証明抜きで正しいものとして導入する「前提条件」です.すべての議論の大前提となる「仮定」とも言えます.

例として,関数 “$f(x)$” の「微分」を考えます.微分の定義では,次のように “$\Delta x$” を限りなく $0$ に近づける極限操作を行うのでした.

$\begin{eqnarray*}\cfrac{df(x)}{dx} \ = \ \lim_{\Delta x\to 0} \cfrac{f(x+\Delta x) - f(x)}{\Delta x}\end{eqnarray*}$

上式では,そもそも「“$\Delta x$” を限りなく $0$ に近づけることができる」という暗黙の仮定をしています.これは,いわゆる「実数の連続性」に関わる性質です.厳密に理論を組み立てるならば,実数 “$\Delta x$” に対してこのような極限操作が可能であることを証明する必要があります.しかし,それは非常に込み入った話になるため,通常は次のような「連続の公理」を認めてしまうのが一般的です(連続の公理にはいくつかの等価な表現がある).

単調減少実数列 “$\Delta x_n \ge 0$” は $0$ に収束する.

また別の例として,小学校の算数で習う次の話を考えます.これも,図形に関する1つの「公理」だと見なせます.

2つの点が与えられた場合,その2点を通る直線を引くことができる.

さきほど考えた「ジャンケン」の例では,次の性質を「公理」として導入することになります.

  • 「グー」は「チョキ」に勝つ.
  • 「チョキ」は「パー」に勝つ.
  • 「パー」は「グー」に勝つ.

ただし,この公理は「ジャンケンの出し手の定義」の一部だと考えることもできます.このように「定義」と「公理」の区別がつきにくい場合もあります.

さて,「公理」とは議論のスタート地点となる仮定のことでした.もし理論を組み立てる上で矛盾が生じないなら,採用する「公理」をある程度自由に選ぶことができます.上で触れた「実数の連続性」の議論もこれに該当します.このような場合は「何を公理として採用したのか?そして何が公理から導かれた結論なのか?」という点をしっかりと把握しておくことが重要です.そうしないと全体的な論理構造を見失い,循環論法に陥ってしまう可能性があります.

命題

「命題」(めいだい,proposition)とは,一般に「〇〇〇は△△△である」という断定形の文を指します.特に,数学では「真」(True)か「偽」(False)がはっきりと定まる文を対象とします(排中律).

たとえば,次の命題は「真」(正しい)です.

$5$ を $2$ で割ったあまりは $1$ である.

一方で,次の命題は「偽」(正しくない)です.

$\sqrt{2}$ は「有理数」である.

数学の本に「命題」という見出しがあったなら,そこに書かれている内容はその後の理論を組み立てる上で必要となる「真の命題」です.通常は,その後に命題が正しいことの証明や解説が続きます.

これに対して「偽の命題」は何の役にも立たないかというと,そんなことはありません.たとえば「$\sqrt{2}$ は無理数である」という命題を証明したいとします(これは正しい).通常,無理数である(整数の比の形で表せない)ことを直接示すのは困難です.そこで,上記の「$\sqrt{2}$ は有理数である,つまり無理数ではない」という命題について考えます.

もし,この「$\sqrt{2}$は有理数である」という命題が正しいと仮定して議論を進めたときに何らかの矛盾が見つかれば,この命題は「偽」だと判断できます(実際そうなる).これによって「$\sqrt{2}$ は有理数ではない,つまり無理数である」という命題が「真」だと示されたことになり,最初の目的が達成されます.

このような「証明したい命題が『偽』だと仮定して矛盾を示すことで,その命題が『真』であることを導く」という論法を「背理法」(proof by contradiction)といいます.背理法は,ちょっと複雑で証明しづらい命題を扱う時の常套手段です.

定理

「定理」(ていり,theorem)とは,「真の命題」の中でも特に重要なものを指します.通常は,定理が正しいことを示す「証明」がその前後に書かれています.

定理には,何らかの前提条件や適用条件が付くことがよくあります.先に触れた「公理」はもちろんですが,さらに追加の条件を含めて「定理」が作られます.

次の定理は,フーリエ解析における「フーリエ級数の一様収束」に関するものです.「区分的になめらか」や「連続」といった部分が,対象を絞り込むための条件となっています.

「区分的になめらか」かつ「連続」な関数に対して,
フーリエ級数の部分和は任意の点で「一様収束」する.

また,次の例は中学校で習う「三平方の定理」です.「直角三角形の各辺の長さとする」とか「斜辺の長さが $a$」といった部分が前提条件です.

$a$,$b$,$c$ を直角三角形の各辺の長さとする.
斜辺の長さが $a$ なら “$a^2 = b^2 + c^2$” が成り立つ.

定理の内容を読み取るときは,その「前提条件」も含めて十分に理解する必要があります.それにも関わらず,定理の中で目立つ主張の部分だけを丸暗記してしまい,後で大きな失敗をして「この定理は間違っている!」と騒ぎ立てる人がいます.

たとえば上記の三平方の定理なら,直角三角形ではない三角形に対して「“$a^2 = b^2 + c^2$” が成り立たっていない!だから三平方の定理は間違っている!」などと言うようなものです.恐ろしいですね.しかし程度の差はあれど,こういった事態に陥ることはそれなりによくあります.「適用条件も含めて1つの定理だ」ということを念頭に置いた上で,その証明も含めて十分に理解することをおすすめします.

補題

「補題」(ほだい,lemma)とは,「定理」を証明するために使う補助的な「真の命題」を指します.「補助定理」とも呼ばれます.

「補助」ということは重要ではないのか?と思われるかもしれませんが,そんなことはありません.先に触れたとおり,定理には何らかの「適用条件」や「前提条件」があります.これは「補題」も同様です.しかし,一般に「補題の前提条件は他の定理よりもゆるい」という傾向があります.すなわち「補題はより多くの対象に適用できる汎用性の高い命題だ」ということです.

よって,「幅広い対象に適用できて便利だ」しかし「理論を組み立てる上で最終的に到達したい結論からはちょっと遠い」という命題が「補題」として扱われることになります.

「系」(けい,corollary)とは,「定理」から直ちに導かれる「真の命題」を指します.定理ほど重要ではないが頭に入れておくと便利な結果,あるいは定理の付属品といった感じのものです.

この「直ちに導かれる」というのは,「式を見た瞬間にわかる」とか「あらためて証明をするまでもない」といったニュアンスです.結局のところ,これはあくまで著者の主観です.

一般的な数学の本では「補題定理 → 系」という順序でこれらの項目が出てきます.このとき,補題と定理の証明は書かれていても,系の証明は省略されることがよくあります(「直ちに導かれる」から).

もし「系が理解できない」という場合は,その前段にある定理の内容を十分に理解できていない可能性があります.もう一度,定理の証明から読み直してみることをおすすめします.ある程度まともな本なら,定理の証明を読み込むことで自然と系の内容も理解できるように構成されているはずです.

公式

「公式」(こうしき,formula)とは,「定理」の結果を端的に表す数式のことです.

公式は「実用上よく出てくる計算をすぐに処理できるようにまとめた道具」です.本来なら何度も式変形を繰り返す必要があるような計算でも,最終的な結果に向かって一気にジャンプできます.そういった意味で,公式は非常に便利な道具です.

ただし,先に触れたとおり定理には「適用条件」があります.この適用条件にしたがって正しく公式を使い分けるためには,その元になった定理を深く理解している必要があります.これは,それなりに難しいことです.適用条件を無視して公式を乱用すると,思いがけないところで致命的な失敗をする可能性があります.

実際のところ,おおもとの定理を覚えてしまえば(丸暗記ではなく論理展開を頭に入れる),計算をする時に毎回自力で公式を導出することができます.中途半端に適用条件と公式の内容を暗記するよりも,もとになった定理だけを頭に入れた方がトータルで見れば楽になります.それはまた,本質的な理解にも役立ちます.