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「定性的」と「定量的」

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大学の研究室のミーティングや会社の開発会議で話をしていると,「もっと定量的に説明してください」なんて言われることがあります.ここでは「定性的」や「定量的」といった用語の意味と,これらの使い分けについて解説します.

定性的

「定性的」(qualitative)とは「大きい/小さい」や「重い/軽い」のように,具体的な数値を示さずに対象を表現することを指します.対象を直感的な指標で表す方法であるとも言えます.

また「個人の意見」や「価値観」,「文化」のようにそもそも数値化することが困難な「質的な情報」も定性的なものとして扱われます.なお,統計学的な手法にもとづくアンケート調査等では,適当な指標を導入して質的な情報を何らかの数値データ(つまり「定量的」な情報)に変換する手法もよく用いられます.

一般的な科学・技術の文脈では,定性的な事ばかり言っていると「具体性がない」とか「幼稚な議論だ」という印象を相手に与えかねません.いずれにせよ,主観的な部分を排除できない表現であることは念頭に置くべきです.

定量的

「定量的」(quantitative)とは,“5kg” や "20m/s" のように具体的な数値を使って対象の性質や状態を表現することを指します.

定量的なデータを取得するためには,何らかの「測定」をする必要があります.そのため,科学的な方法論では「測定手法」と「定量的なデータ」の組み合わせを様々な議論の土台として重要視します.仮に大量の(一見すると興味深い)数値データが得られたとしても,その測定手法が妥当ではないと判断されたならば取得したデータの価値は下がります.

一般的な実験では,1つの対象について多数の定量的なデータを取得します.通常は,それらの数値データを利用して「対象の挙動を表現する数式」を作ることが最終目標となります.このような数式を「数理モデル」(あるいは単に「モデル」)といいます.

数理モデルがあれば,同じような物を作ったり同じような状況が生じたりしたときに,その先の挙動を予測することができます.つまり,数理モデルがあれば「設計」が可能になります.また,定量的なデータは既に得られている数理モデルの検証にも利用されます.

半定量的

「半定量的」(semi-quantitative)とは,対象を具体的な数値データではなく「質量に比例する」とか「距離の2乗に反比例する」といった形で,おおまかな関係性を表すことを指します.

これは「関数の形だけを定めた数理モデル」を扱うことに相当します.もし対象の挙動が “$y = ax + b$” という1次関数で表されるなら,“$a$” や “$b$” の値を具体的に定めることで数理モデルが完成します.しかし,半定量的な扱いをする場合はこれらの定数を決定せずに「対象は1次関数にしたがう」という情報だけで議論を進めます.

このような半定量的な扱いは,対象の挙動の概要を把握するときに便利です.「“$x$” が大きくなると “$y$” も大きくなる」という定性的な情報だけでは役に立たないが,具体的な数値データを取得するには手間がかかるし,そこまでの解像度は不要だ.そんなときに「“$y$” は “$x$” に比例する」とか「“$y$” は指数関数的に増大する」といった半定量的な情報が役立ちます.対象の本質をとらえつつ,適当な解像度で素早く議論を展開することができます.

「定性的」と「定量的」の使い分け

一般に,技術者が行う設計とは「数理モデルを使った未来予測」のことを指します(微分・積分 のセミナ参照).よって,まともに設計をしたいなら定量的な議論が不可欠となります.これは,統計的な手法にもとづいてデータ分析をする場合も同様です.定量的な議論がまったくできない相手は「専門知識を持たない素人」か「悪意を持った詐欺師」である可能性が高く,少なくとも信頼できるプロではありません.

定量的なものの見方は客観的かつ厳密な議論に適していますが,データを取得したり吟味したりするのにそれなりの労力がかかります.そのため定量的な議論に固執すると,かえって現場の効率を悪化させてしまうこともあり得ます.場合によっては定性的に「大きくなります」と言ったり,あるいは半定量的に「2次関数的に増加します」と表現したりする方がスムーズな仕事につながります.結局のところ,本来の目的(良い製品を開発する,効率よく研究を進める,最適な意思決定を行うなど)を達成するにはどの程度の解像度で議論すべきか,常に自分の頭で考えるのが重要です.

なお,「定量的な話もできるが状況に合わせて定性的な説明をする」のと「定量的な議論ができないから定性的な説明だけをする」の間には大きな差があります.当然ですが,望ましいのは前者です.後者はただの素人です.いつでも定量的な議論に対応できるように万全の準備をしつつ,話をする相手や周りの状況に合わせて定性的・半定量的な言い回しも使い分けられるのが理想です.